坂の町へ
モリビトです。
向田邦子さんを読み始めた頃、高校生となっていた私は、読書の時間が取れないまま、否、取らないまま、時間を過ごしていました。
たまに、星新一のショートショートを、通学の合間に読み、受験勉強をしていました。
そんな、3年を過ごしていましたが、当時テレビで面白い番組がありました。
「名作の旅」という日曜日の朝?に放送していたありがたい番組です。過去の名作と言われる作品の舞台となった土地の背景と作品の内容との関連を、旅番組として扱っていたものです。
例えば、「雪国」なら越後湯沢、「二十四の瞳」なら小豆島、「城崎にて」ならまさに城崎温泉、「武蔵野夫人」は武蔵野丘陵など、大正昭和の名作と言われる作品の舞台を巡って、作品を読みつつ、情景を感じながら旅しようというものでした。
あまりにも単純明快な番組構成に、当時の私は、「はぁ、そうか小説の舞台を感じながら読めば楽しいのか」と納得してしまいました。今で言うところの[聖地巡礼]です。
もちろん、高校生だった私は、名作の舞台に都度足を運ぶわけにいきません。果たして小説の舞台はどういうところなのか。
地図を見るのが好きだったので、トイレ(大)に入る時は地図帳を持って用を足していた私は、すぐに名作の舞台がどこか分かるようでしたが、如何せん、その作品の舞台背景、方言、食べ物、文化、名物が詳しく分かりません。
場所はわかるけど、そこがどういうところか。そうか、小説を読むことは、そのような悩みを解決するにもいいことなのだ。推理小説では、特に舞台背景はどうでも良いものが多く、その土地ならではの物という発想が欠けていたのです。
ちなみに、ちょうど時を同じくして 「人生二万冊」 という言葉を胸に刻みました。
ですから、とにかく、名作を読んでみようということになりました。
しかし、片っ端から読むには、ノルマを科しているような感じなので、まずは興味のある土地を作品にしたものから。
いきなり「暗夜行路」から。
志賀直哉の名作で、読み始めますが・・・
まったく、頭に残りませんでした。
舞台は皆さんご存知の 尾道 です。
尾道といえば、大林監督の尾道三部作が我々世代にとっての聖地ですが、昔から、名作の舞台だったわけです。
小説では「暗夜行路」、映画では「東京物語」など、メインであったり、一場面であったり。とにかく尾道はよく使われています。たまたま通っていた高校の修学旅行の行先にも加えられたのは、自分にとってもいい思い出になりました。
しかも、高校時代には、修学旅行と別に家族でも訪れており、まさに聖地巡礼を2回も達成したわけでした。後にも先にもこれっきり尾道には行っておりません。
尾道といえば、坂の町。坂を下ればそこは海、というロケーションばっちしの舞台です。
尾道を訪れるまでに行ったことがある坂の町は、神戸だけだったので、比べるとやはり尾道の勝ち(私の中では)。そうなると、他にも坂の町に行ってみたくなります。例えば長崎、函館など。
名作の旅、モリビトVer.はこうして始まりました。その後、折を見て様々な土地を巡るのです。そして、この番組の影響と「人生二万冊」の言葉のおかげで、名作を好き嫌いせず読もうという気になったこともありがたいことでした。